大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和60年(ツ)7号 判決 1985年10月30日

上告人 大沢満

右訴訟代理人弁護士 新美隆

同 鈴木淳二

同 大谷恭子

被上告人 今関武

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 坂本建之助

同 佐藤成雄

同 浅野晋

同 原勝己

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は、上告人の負担とする。

理由

一  本件上告理由は、別紙上告理由書記載のとおりである。

二  上告理由第一点について

(一)  本件建物の賃貸借の性質について

原審の確定した事実関係によれば、本件即決和解は、当時本件建物付近一帯に施行された区画整理事業のため本件建物の旧建物が換地上に移築されるのに伴い、敷地所有者被控訴人ら、旧建物の所有者で被上告人らの被相続人今関なみ及びその賃借人上告人の間で、区画整理後の土地利用関係に対応するため成立したもので、右和解において、上告人が旧建物をなみの委託により主として工事補償金で換地上に移築し、移築後の本件建物を賃借することになったものであるが、かねてから被上告人らが換地上にビルヂング建築計画を有していたので、上告人もこれを了承し、右計画を前提として和解がなされ、右ビルヂング新築の暁には上告人がその一階及び二階のなるべく公道に面した従来の位置に近い部分各二五・四五平方メートルを被上告人らから賃借する等の約定のもとに、移築すべき本件建物については、一部付加、改造を認めるが、なるべく簡素にするとともに、その賃貸借の期限を昭和三五年一〇月末日とし、同日限り右賃貸借は終了するが、ビルヂング建築が延期されるときはその期間だけ延長されることとし、上告人において一時使用目的の賃貸借であることを確認し、上告人の代理人である弁護士が関与して、以上の趣旨を含む本件和解調書が作成されたものであるところ、その後付近一帯の土地利用者の複雑な権利関係のためビルヂング建築は遅れたけれども、その計画は放棄されることなく維持されている、というのである。

以上のような事実関係のもとにおいては、原審が、たとえ本件建物の賃貸借の期間が事実上延長を重ね、その間家賃の改定も行われ、結果的には長期間を経過して今日に至ったとしても、本件建物の賃貸借は一時使用のためのものであって通常の賃貸借に変容したともいえない、と判断したことは、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

(二)  執行文の付与について

所論の点に関する原審の認定判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。本件和解調書第五項(ビルヂングの一部賃貸条項)により、被上告人らは、新築ビルヂングにつき所定の賃貸義務を負うのであるが、同項は建築前の約定にとどまるから、具体的な賃貸借は、ビルヂング建築の進行に伴い、当事者間の協議により成立させるべきことが予定され、そのため本件和解調書第四項(一)において、被上告人らが具体的建築計画を提示して(後記三参照)明渡しを求めたときは、まず上告人は本件建物を明け渡すべきものとされ、右計画につき上告人が疑問や不満をもつときは明け渡す必要がないというものでないことは、本件和解条項の内容及び和解成立事情から明らかである。上告人は、被上告人らが原審において右ビルヂング貸与義務を履行しない態度を示したというが、それは第五項の約定の問題であって、別個に解決すべく、既に生じた上告人の本件建物明渡義務に消長はない。論旨は、原判決を正解せず、又は原審の専権に属する事実認定を非難するものであって、採用することができない。

三  上告理由第二点について

所論具体的建築計画の意義、同計画の提示の有無、本件建物賃貸借の性質その他の各点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる(なお、前記二参照)。論旨は、要するに原審の専権に属する事実認定を非難するか、原審の認定しない新事実をも加えて、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、引用の判例も本件に適切でなく、いずれも採用することができない。なお、上告人は、被上告人が新築ビルヂングに上告人を入居させない態度を原審において示したことをもって、具体的建築工事計画の撤回であり、このように解さないと上告人は著しい損害を受けるから、被上告人らの本件和解調書に基づく執行は権利濫用である旨主張するけれども、上告人は、既に本件和解調書第四項(一)により本件建物を明け渡す義務を負担しており、右明渡しが任意によりなされると、強制執行によりなされるとを問わず、明け渡した以上、同調書第五項により被上告人らに対し新築ビルヂングの貸与義務の履行を請求しうるのであり、本件和解がそのような仕組みでなされていることは前記二記載のとおりであるから、この点に関する原審の判断には上告人主張のような違法はない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小堀勇 裁判官 吉野衛 山﨑健二)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例